ジョーダン博士は「量子力学の奇妙さがまた一つ明らかになりました。全体としては微小なエネルギーしか持たないはずの系に、局所的とはいえ大きなエネルギーが潜みうるのです。まるで無からエネルギーが湧いて出たように見えますが、もちろん実際には量子の干渉によるトリックであり、自然の法則を破るものではありません」と強調しています。

また狙った粒子を後から拾い出せる確率が極端に低いため、実験では膨大な回数をやり直す必要もあるでしょう。

それでも、量子力学の可能性としてエネルギーの再配分や集中現象を巧みに利用できる道が開けたことは大きな意義があります。

研究チームは、今回の成果が将来的に量子系の超解像などに役立つ可能性を示唆しています。

例えば今後、この量子の超挙動を利用して、通常は高エネルギーでないと検出できないような微細な物理現象を、低エネルギーのまま観測する技術につながるかもしれません。

さらに研究が進めば、量子の波を自在に制御してエネルギーを必要な場所に集中させるといった新奇なテクノロジーが生まれる可能性もあるでしょう。

量子力学の奇妙さを体現するこの「スーパーオシレーション」や「スーパーエネルギー」の研究は、今後も私たちの直感を覆すような発見をもたらしてくれそうです。

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元論文

Superphenomena for arbitrary quantum observables
https://doi.org/10.1103/PhysRevA.110.012206

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部