言い換えれば、エネルギーや角運動量といった物理量においても、“ありえない”値が現れる「量子の超挙動」が起きるのではないかという問いです。
研究チームはまず理論的枠組みを整えた上で、運動量とエネルギーの二つを例に、その「超挙動」によって通常の最大値を上回る結果が得られることを示しました。
特にエネルギーに関する発見は衝撃的です。
エネルギーは物質の状態を決定づける重要な量で、本来なら低エネルギー状態の組み合わせから高エネルギーが生まれることはないと考えられます。
しかしジョーダン博士らは、量子の重ね合わせによってその「ありえないはずのエネルギー」を生み出す方法を見出そうとしたのです。
量子の超挙動が無からエネルギーを作り出す

研究チームは量子論でよく用いられる調和振動子(バネに繋がれた物体の量子的モデル)に着目し、理論計算を行いました。
調和振動子にはエネルギー固有状態が無数に存在しますが、その中からエネルギーがほぼゼロに近い状態だけをいくつも選び出し、それらを重ね合わせた特殊な量子状態を構成しました。
その結果、驚いたことに重ね合わせる状態の数を限界まで増やしていくと、最終的に“ちゃんとした”エネルギーを持つ波へ落ち着くことが計算でわかったのです。
研究論文の中で、著者たちはこの現象を「無からエネルギーを作り出す」状態と表現しています。
では、エネルギーが「無から湧く」とはどういうことでしょうか?
この量子状態を例えるならば、特殊な量子の波はまるで舞台の照明と言えます。
たとえばスポットライトが当たったところでは光が集まってまぶしいほど明るく(=エネルギーが高く)なるのに、ライトが当たらない客席は暗がりのまま(=エネルギーがほとんどゼロ)……という感じです。
粒子の波動関数(粒子の状態を記述する波のようなもの)が重ね合わせを増やすほど、高エネルギーが現れるエリアを少しずつ広げられる余地がある一方で、それ以外の領域では波同士が打ち消し合いほとんどエネルギーを持たないように作られています。