そのため他人のちょっとした言動にも敏感であり、相手の態度を「上から目線」や「冷たい態度」と感じやすいことが、過去の研究から報告されています。
この一連の流れこそが、脆弱なナルシシズムの本質だと研究者たちは指摘しています。
怒りの裏には、崩れやすい「優越感」の防衛がある
研究者たちが解き明かそうとしたのは、ある性格特性の人における「なぜその怒りが生まれるのか」という構造的な背景でした。
脆弱なナルシシズムを持つ人々は、自分を「特別でありたい」「他者より優れていたい」という強い願望を持っています。それ自体は、誰もが少なからず抱える自己肯定感の一部ですが、問題はそれを支える土台が非常に不安定なことです。
表面的には「私はすごい」と振る舞っているのに、内側では「それが崩れたらどうしよう」と常にビクビクしています。これを「自己評価の二重性(self-esteem instability)」として報告している研究もあり、自信と不安の同居した心の構造が特徴だとされます。

こうした人々にとって、他者からの忠告や反論は、単なる「アドバイス」や「意見の違い」ではありません。それらはまるで、自分の理想像を揺るがす“脅威”として感じられてしまうのです。
そのため彼らは、些細なアドバイスや指摘でも「自分の価値が否定された」「見下された」という形で解釈し、それを怒りという攻撃的な感情で跳ね返そうとします。つまり、怒りは“自分の特別さを守る最後の砦”のように機能しているのです。
この構造を理解することで、私たちは「なぜあの人は、素直に人の意見を聞かないのか?」という問いに、より冷静に向き合えるようになります。
こうした脆弱なナルシシズムの特性を理解できれば、「何気ない一言でも、あの人は『自分が否定された』と受け取る」と事前に想定できますし、本人の理想像を壊さないように誘導してあげることで、反発を避けて言うことを聞かせることもできます。