そこでラトガーズ大学とミシガン大学の研究チームは、こうした特徴が実際のコミュニケーションでどう観察できるのか検証する研究を行いました。

ナルシシズムはダーク・トライアドという社会的にトラブルを引き起こしやすい3つの性格特性の1つであり、研究者たちの問題意識は、「この性格特性がなぜ対人トラブルを引き起こしやすいのか、その具体的なメカニズムを確認する」点にありました。

調査には約400人の参加者が協力しました。彼らにはまず、質問票により「脆弱なナルシシズム」の傾向を評価され、その後、スマートフォンを使って日常の対人関係と感情の変化を1日6〜7回、最大21日間記録してもらうという、実生活に根ざした調査手法(経験サンプリング法)が用いられました。

参加者は毎回、「いま関わった相手はどんな態度だったか(支配的・従属的/親密・冷淡)」を数値で評価し、自分自身が感じた怒り、不安、苛立ちなどについて報告しました。

その結果、脆弱なナルシシズムのスコアが高い人ほど、相手が自分より優位に振る舞っている(=支配的)と感じたときや、相手がよそよそしく冷たく接している(=親密性が低い)と感じたときに、怒り・不安・苛立ちといったネガティブな感情が特に強く現れることが明確に示されました。

つまり、こうした性格特性を持つ人は、相手からの指摘や注意に対して、自分の優位性や特別さが脅かされたと感じ、それを怒りとして表出しやすい状態にあるのです。

ナルシシズムという性格特性は、一般に「自分に強い自信を持ち、自分は特別な存在だと信じている」傾向を指します。

しかし脆弱なナルシシズムと呼ばれるタイプの人たちは、表面的には同じ様に「自分を特別視」して自信家のように振る舞っていながら、実際の内面は非常に不安定で完全に自分に自信を持つことができていません。そのためその自尊心は非常に揺らぎやすく、自分の理想像を崩されることへの強い不安や恐怖を抱いているのです。