これらは1457年と1475年に書かれた手紙で、すべてルーマニアの都市シビウの統治者だったトーマス・アルテンベルジェ(1431〜1491)に宛てられており、徴税などの日常的な事柄が記載されています。

1475年8月4日付けの手紙(右はUV蛍光下で検出されたアミノ酸のマッピング)
1475年8月4日付けの手紙(右はUV蛍光下で検出されたアミノ酸のマッピング) / Credit: Maria Gaetana Giovanna Pittalà et al., Analytical Chemistry(2023)

手書きの場合、書き手は必然的に紙に触れることになりますが、その際、手の皮膚から多様な化学物質が紙媒体に移動することが分かっています。

チームは手紙を傷つけずにヒト由来のタンパク質とペプチドを採取すべく、エチレン酢酸ビニル(画像中の茶色いパッチ)を塗布しました。

(ちなみに、タンパク質はアミノ酸が50個以上結合したもの、ペプチドはアミノ酸が50個未満で結合したものを一般的に指します)

そして採取した化合物を質量分析した結果、500種類以上のペプチドを含む残留物が発見され、さらにその中からヒト由来の物質を100種類ほど検出しました。

これらを綿密に調べたところ、ヴラド3世は細胞機能や臓器の働きを損なう遺伝性疾患の「繊毛病(せんもうびょう)」にかかっていた証拠が見つかっています。

また気道や皮膚に問題が生じやすくなる炎症世疾患の痕跡も特定されました。

1475年に書かれた手紙
1475年に書かれた手紙 / Credit: Maria Gaetana Giovanna Pittalà et al., Analytical Chemistry(2023)

しかし最も興味深かったのは、血の混じった涙を流す奇病である「ヘモラクリア(hemolacria)」に関連する物質が見つかったことでした。

これは1475年の手紙からのみ検出されたので、ヴラド3世は晩年にこの奇病に苦しんだことが伺えます。

ヘモラクリアは血液成分が涙管の液体と混じる珍しい症状で、涙腺に出来た腫瘍、細菌性の結膜炎が主な発症原因です。