さらにラパマイシン単剤および併用群では体重が低めに保たれた、活動的に動き回る、といった全身の若々しさ維持につながる変化も観察されています。
要するにこの薬剤カクテルは、寿命と「健康寿命」を同時に押し上げたことになります。
ヒトでも効く? 次の壁は副作用と用量設計

では、なぜ2つの経路を同時に抑えるとこれほど老化を抑制できたのでしょうか?
著者らはそのメカニズムの手がかりとして、併用投与したマウスの遺伝子発現パターンを詳細に解析しました。
その結果、併用治療だからこそ現れる特有の変化が各組織で見られたといいます。
単剤投与では現れなかった発現量が大きく変化する遺伝子が数多く検出され、老化や代謝に関わる経路の調節が一層強力かつ広範囲に及んでいたことが示唆されました。
これは「効果が倍量になるだけの単純な足し算ではなく、質的に新しい作用が加わった可能性がある」ことを意味します。
さらに重要な点として、2剤併用によるラパマイシン既知の副作用(肝脂肪変性・高血糖など)は残存したが、新たな毒性は加わらなかったことも報告されています。
通常、薬を複数使えば副作用リスクも増す懸念がありますが、適切な用量設定のもとでは少なくともマウスでは有害な影響が増えなかったのです。
今回の成果は、既存の医薬品を用いて老化そのものを制御しようとする戦略の可能性を示しました。
ただしマウスで見られた「寿命30%延長」という劇的効果が、そのまま人間にも再現できるとは限らないと研究チームは強調しています。
共著者のリンダ・パートリッジ教授は「ヒトでマウスと同じ寿命延長が得られるとは期待していません。むしろ今回調べた薬によって、高齢期をより健康に過ごせるようになることを望んでいます」とコメントしています。
ラパマイシンおよびトラメチニブはいずれもすでにヒトに承認・使用されている薬剤のため、その意味では臨床応用へのハードルは全くの新薬と比較して低いと言えるでしょう。