特に注目したのは、ルテニウム元素の中でも質量数100の同位体「ルテニウム100」です。
これらの同位体は地球の核とマントルとで存在比にわずかな差があることが予測されていました。
するとハワイの火山岩ではルテニウム100の割合(同位体比)がわずかに高いことが明らかになりました。
この微小なズレ(同位体比の違い)は、溶岩が地球深部の特殊な物質を取り込んだ“痕跡”であると考えられます。
実際、地球の核には地殻やマントルよりもわずかに多い割合のルテニウム100が含まれているため、核由来の物質が混ざれば溶岩中のルテニウム同位体比に影響を及ぼすはずです。
今回ハワイの試料から見つかったわずかに高いルテニウム100の信号は、その岩石が核—マントル境界付近に起源を持つことを示すものです。
さらに同じ試料ではタングステン182の同位体比にも通常のマントルでは説明できないわずかな偏り(非放射性寄りの組成)が検出されました。
タングステン自体は核に豊富ですが、182W/184W 比が核とマントルでわずかに異なります。
ルテニウムとタングステン、二つの元素の指紋がそろって示すもの──それは地球の核から漏れ出した物質がハワイのマグマに混ざっていたという結論でした。
掘れない金、動く地球—深層リークが語る資源と惑星進化

このことは地球化学的な好奇心を刺激するだけでなく、私たち人類にとって身近な貴金属資源にも意外なルートがあった可能性を示唆します。
例えば、私たちが日頃利用している金や白金(プラチナ)などの一部は、太古の地球の核に閉じ込められていたものが何億年もの歳月を経てマントルから里帰りしてきたものなのかもしれません。
もっとも、だからといって核から漏れ出た金が今すぐ大量に採掘できるわけではありません。
これらの元素が地表にもたらされるのは非常にゆっくりとしたプロセスであり、現実的に人類が地下2900kmの核まで掘り進んで宝を取り出すこともできないでしょう。