但し、裁判所の判断も広義の脅威なのか特定の自由を根拠とする狭義の脅威かは微妙なところです。たとえば日本のヤクザがアメリカ入国を禁止されたのはこの法律が根拠法だったと記憶しています。それは非常に特定の脅威だったわけです。今回は全世界を脅威とするのは逆に言うとアメリカはそこまで弱体化し、誰にも勝てないから10%のハンディキャップをくれ、というふうに私には聞こえます。
さて、では今後どうなるか、です。驚くことに連邦控訴裁判所が一審の判断を一日にして「保留」としました。連邦最高裁からのプレッシャーがあったものです。要は審理をしたわけではなく、政権の影響力を考慮したものでしょう。個人的には裁判の在り方を考える上では好ましいとは思いません。
いずれにせよ連邦控訴裁判所の控訴審が直ちに審理を開始するでしょう。結果は案外早く、Ⅰ-2カ月で出るかもしれませんが、どのみち最高裁にまで行くはずで今年のものになるかどうかは不明です。
今回の貿易裁判所の判断では10日以内に中国向け30%上乗せ関税、カナダとメキシコへの25%関税、その他の国への10%関税は撤廃されるところでした。自動車やアルミ、鉄鋼の関税は通商法や通商拡大法を根拠にしているので影響は受けません。問題は最高裁で黒星となった場合、トランプ政権がどう対処するかです。多分、今からオプションを考え抜き、何らかの代替的理論武装でそれを維持するのでしょう。

4月に関税を発表したトランプ大統領
政権高官の声は割れており、代替方法の示唆(ナバロ上級顧問)や裁判所の判断が間違っているから何もしない(ハセットNEC委員長)といった意見となっており、政権内での意見調整が進むと思います。ただ、各国との関税交渉が最高潮になっている時だけに水をかけられたことは確かでしょう。なぜならトランプ氏の主張根拠そのものが足元で揺らいだのですから。
ポイントは大統領はどこまで権限を持っているのか、であります。日本のように政党政治ですと与党のトップが首相となるも首相の権限は限定されています。特に連立を組めば連立相手との調整もあるし、自身が所属する党内力学もあります。イタリアやイスラエルのような多数の政党による連立となるとガラス細工のような繊細さを求められ、国政の自由度は限定されます。一方、大統領制でもドイツのように大統領の権限を極力制限している国ならば実質的には政党政治ということになります。大統領選真っただ中の韓国はアメリカ型の大統領権限であり、故にアメリカ同様、政権交代が頻発するとも言えます。大統領になると権力の座に座るわけで「剣」を使ってみたくなるということです。