彼らは、犬が視覚の代わりに使える“新しい感覚”を提供する方法として、触覚(ハプティック)によるフィードバックに注目しました。

これまで、視覚障害のある犬は、飼い主の声やリードの操作によって誘導されるのが一般的でした。

しかしそれでは、犬自身の「自律的な行動」が制限されてしまいます。

「もし犬自身が、危険を察知して自分で方向を変えられるようになったら…」

その発想は、視覚障がいを持つ人間向けの触覚伝達(ハプティクス)技術にも通じるものでした。

人間にも使われ始めている触覚ナビゲーションベルトや振動による地図情報の伝達といった技術を、犬に応用しようという発想。

それを考えついたのが、大学生たちだったというのは実に頼もしい話です。

試行錯誤の末、彼らは軽量で、安全かつ簡単に着脱できる「触覚ベスト」の開発に成功しました。

そしてその試作品は、視覚を失った犬の生活を一変させました。

振動で「見える」世界へ!盲目のイヌに「第二の目」を与える触覚ベスト

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触覚ベストを開発 / Credit:Rice University

学生たちが開発した「触覚ベスト」は、外見はシンプルながら、内部には非常に洗練されたテクノロジーが詰め込まれています。

ベストとイヌの頭部近くに設置されたカメラ一式ににより、リアルタイムで奥行き情報(深度)をキャプチャーし、障害物までの距離を測定します。

そしてその情報がコンピュータモジュールに送られ処理され、状況に応じてベスト内の小型振動モーターが作動するようになっています。

たとえば、右前方に障害物があると、その部分のベストが“ブルッ”と震え、犬は本能的に「そちらに何かある」と感じ取り、自然と避ける行動をとるのです。

障害物が近ければ近いほどベストのその側の振動が強くなる設計です。

このフィードバックは即時かつ直感的なため、犬にとってストレスが少なく、ほんの数回のトレーニングで応答行動が身につくことが確認されています。

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触覚ベストによってクンデは周囲を把握できるように / Credit:Rice University