さらに女性配偶者のほうが男性よりも細菌叢の変化やメンタル指標の悪化が大きかった点も興味深いです。
健康だった側のコルチゾール値が急上昇したことは、パートナーの不調に引きずられる形でストレスが活性化した可能性を示唆します。
こうした結果は「相手の落ち込んだ気分を感情面だけでなく生物学的にも共有してしまう」シナリオを支持しますが、因果関係までは断定できないため、慎重な解釈が必要です。
“愛のキス”は薬か毒か──見えてきたメカニズム

1つ目の考えられるメカニズムは、口腔内マイクロバイオームと脳をつなぐ経路です。
論文中では「血液脳関門(脳を守るバリア)の働きを 直接ゆるめてしまう可能性がある(may directly compromise the blood–brain barrier)」と仮説が提示されています
口内で増殖した一部の菌が産生する物質や炎症シグナルが血流に乗って全身に巡り、脳のバリアを突破して神経系に干渉する可能性があるというわけです。
(※ただこれは現段階では仮説であり十分に検証されていません)
2つ目は、口から腸へと至る「口腔—腸—脳軸」と呼ばれるネットワークを通じて神経伝達や免疫調整に影響し、間接的に脳機能を変化させるシナリオも考えられます。
今回検出されたクロストリジア類やラクノスピラ科の菌は腸内細菌としても知られ、短鎖脂肪酸など神経伝達や免疫に影響する代謝物を放出することがあります。
そうした物質が増えることで脳内の神経伝達物質のバランスが乱れたり、慢性的な炎症が脳にダメージを与えたりして、結果的に抑うつや不安を誘発する可能性があるのです。
しかし一方で、「ニワトリが先か卵が先か」の問題も残ります。
つまり、細菌が気分を落ち込ませたのか、それともパートナーの不調に伴うストレス環境が細菌叢まで乱したのか、因果関係はまだ断定できません。