人と人は感情を共有するだけでなく、生理的なリズムやホルモン分泌までも影響を与え合う可能性があるのです。
その一因として近年注目されているのが、キスや食事の共有などを介して起こる体内細菌の伝播です。
そこで研究チームは、新婚カップルを対象に「半年間の追跡観察」を行い、口腔内細菌の変化とうつ・不安症状(自己記入式のスコアが示す中程度の不調)がどのように関連するかを調べることにしました。
「ふたりが親しく暮らすうちに口の中の細菌がうつり、それが気分まで似てくるのでは?」という予測は正しかったのでしょうか?
キスで気分が細菌と一緒にコピーされる

親密な相手から細菌叢をもらうと、気分まで同調してしまうのでしょうか。
謎を解明するため、研究者たちはまず新婚の夫婦1,740組を対象にスクリーニングを行い、その中から「一方のパートナーが自己評価テスト(BDI-II:21項目の抑うつ自己評価テスト、BAI:21項目の不安自己評価テスト)で中程度の抑うつ・不安スコアを示し、不眠も併発している(以下、DA表現型と呼びます)、もう一方がメンタル面で健康」という組み合わせの夫婦268組を選び出しました。
選ばれたカップルは結婚から平均6か月ほど経過しており、全員が同居しています。
この半年追跡の観察研究(実質的には前向き観察コホート)では、一方を“健康な配偶者群”268名、他方を“DA表現型の配偶者群”268名として解析を行いました。
研究開始時(結婚約半年時点)と6か月後(結婚約1年時点)の2回にわたり、両者の抑うつ度(BDI-II)、不安度(BAI)、睡眠の質(PSQI:0~21点で評価)、唾液中のコルチゾール値、そして口腔内細菌叢の構成を測定しています。
その結果、当初はメンタルが健康だった配偶者の指標に明らかな悪化が認められました。