このうち、旧石器時代の遺跡で確認されたことがあったのはマッコウクジラだけ。他の種はすべて、今回が初めての発見でした。
さらに放射性炭素年代測定により、これらのクジラ骨は約2万〜1万4000年前に使用されたものであり、特に1万7500年〜1万6000年前にかけて多くの道具が作られていたことがわかりました。
クジラの骨で道具を作ったのは、約1万2000〜2万年前にビスケー湾沿岸部を含む西ヨーロッパに広く分布していた「マグダレニアン文化」の人々だと考えられています。
なぜ彼らはクジラの骨を道具に選んだのでしょう?
分析された道具の多くは、投射用の槍の穂先の部分でした。
とくにマッコウクジラの骨で作られたものが多く見つかっており、その堅くて真っ直ぐに長い骨は、加工しやすく、強度にも優れていたと考えられています。
これらの道具の形状や作り方は、トナカイやアカシカの角を使った通常のマグダレニアン文化の狩猟具とほぼ同じであり、当時の人々がクジラ骨を「特別な素材」として利用していたことがうかがえます。
当時の生態系についても知見も
また今回の研究は、人類が2万年前からクジラの骨を道具に使っていたことを示すだけでなく、当時の北大西洋の海に多種多様なクジラが生息していたことも示す貴重な証拠です。
研究者はこう話しています。
「私たちが確認したマッコウクジラ、シロナガスクジラ、ナガスクジラはいずれも現在の北大西洋にも分布しており、その意味では意外ではありません。
ただし、氷河期の末期と現代とでは環境条件が大きく異なるにもかかわらず、クジラの分布が今とほとんど変わっていないという事実は非常に興味深いものでした。
その一方で、当時ヨーロッパの大地に生息していた陸上の偶蹄類は、トナカイ、サイガ、バイソンなど、現代の西ヨーロッパにはもはや見られない動物ばかりです」
つまり、陸上の生物種はこの2万年間で大きく変わったものの、クジラたちの分布はほとんど変わっていなかったのです。
