この感情は、子どもが本来の自分を生きることへの大きなブレーキになります。
さらに、成人後の対人関係にも影響します。
親との間で境界が築けなかった人は、他人との距離感をうまく保てず、必要以上に相手に合わせてしまったり、逆に人間関係に疲れて孤立したりする傾向があります。
また、自分の感情がわからない、自分に価値があると感じられない、といった自己否定感やアイデンティティの不明瞭さも問題になります。
発達心理学では「分離-個体化」のプロセスが重要視されており、健全な親子関係とは、情緒的な結びつきと心理的な独立性が両立している状態だとされます。
それができていない関係は、当然ながら健全だとは言えません。
虐待ではないかもしれません。
でも健全な状態でもないのです。

では、こうした状態から抜け出すにはどうしたらよいのでしょうか?
ラザフォード氏は、まず親と子の関係に潜む構造的な問題に気づくことが大切だと述べています。
多くの親は自らの行動が過干渉であることに無自覚であり、しかしそれに気づいたときには、子どもの幸福のために一歩引くという選択が可能になります。
同様に、子ども側もその密接すぎる関係性から一時的に距離を置くことで、自分自身を見つめ直す機会を得ることができます。
このように、これまでのパターンを変えることは可能ですが、最初のうちは違和感や孤独感を伴うかもしれません。
今までになかった「距離」が生まれることで、親も子も不安を感じることがあります。
でもそんなときは、親子以外の関係に目を向けることができます。
親であれば、子どもへの過度な依存を手放し、代わりに他の信頼できる人間関係を築くことが大切です。
子どもの側も、自分自身のアイデンティティを育て、健全で支え合える関係性を築くことが求められるのです。