距離にして数マイクロメートル離れていても、量子もつれによって振動のパターンが結び付きます。
そして最後の決め手として、各原子の内部の電子状態(エネルギー準位)についてもペアで量子もつれさせました。
これにより、原子Aと原子Bは「運動状態」と「電子状態」の二つの自由度で同時にもつれたことになります。
振動のパターンでもペア、内部状態でもペア──二重にもつれた超量子もつれペアというわけです。
運動状態でも電子状態でも「もつれる」とは?
イメージとしては、二つの小さな鈴が同じテンポでチリンチリンと振れているようなもので、もし A が「右➔左➔右」と動けば、B も必ず同じタイミングで「左➔右➔左」と動きます。(※この場合は逆の動きにもつれるように調節した場合です。Aと同じようにBも「右➔左➔右」という関係にもつれさせることも可能です)
一方、電子状態は原子内部の電子が持つエネルギーの段やスピンの向きを指し、極小の磁石が上向きか下向きかで情報を運んでいるようなものです。ここでも A の電子が上を向けば B の電子は同時に下を向く、あるいはその逆(Aが下でBが上)や同期(AもBも同じ向き)に必ず呼応します。つまり二つの原子は、外側の揺れ方でも内側の電子の向きでも常に相手とリンクしており、振動でもペア、電子でもペアという「二重にもつれ」が完成したわけです。
研究チームはこのハイパーBell状態(Bell状態とは2量子ビット間の完全なもつれ状態を指す言葉で、その二重版といえるもの)を高い精度で実現したと報告しています。
今回の成果は質量を持つ粒子系での超量子もつれとしては初めての実証となり、従来は光子でしか成し得なかった領域に踏み込んだ点が画期的です。
共同第一著者のアダム・ショー博士によれば、「どこまで原子を精密に制御できるか、その限界に挑戦する中で、運動と電子状態を同時にもつれさせることが可能だと示せたのが大きい」ということです。