別の比喩をすれば、遠く離れた二人が不思議にも同じ色の青い靴下を履いているようなものだとも言えます。
たとえ片方の靴下は木綿でももう片方はウールだとしても、色という属性だけはピタリと揃っている──そんなイメージです。
実はこのように「情報の素材が違っても特定の性質を共有する」ことこそ、量子もつれの醍醐味であり、量子技術の鍵となります。
ではなぜ超量子もつれが重要視されるのでしょうか?
理由の一つは、一組の粒子から得られる情報量を飛躍的に増やせるからです。
エンタングルメントが一種類ではなく二種類あるということは、実質的に一対の粒子で二組分のもつれを持つようなもので、量子コンピュータで扱える量子ビット数が倍増する効果があります。
また超量子もつれ状態は、量子通信におけるスーパーデンスコーディング(1対の粒子で通常の2倍の古典情報を送る手法)や、離れた場所で複数の量子リンクを一度に確立する高度な通信プロトコルにも応用が期待されています。
しかし、これまで超量子もつれの実証は主に光子(光の粒)でしか成功しておらず、質量を持つ原子やイオンといった物質系では達成されていませんでした。
原子同士で複数の自由度にもつれを実現するには、極めて精密な制御技術が必要だからです。
今回カルテックの研究グループは、そうした技術的ハードルを乗り越え、「原子の内部状態」と「原子の運動状態」を同時にもつれさせる初の実験に成功しました。
量子もつれを“2段重ね”にする意味

では具体的に、研究チームはどのように原子を超量子もつれさせたのでしょうか。
実験に使われたのはストロンチウム原子(アルカリ土類元素の一種)です。
これらの原子を39本のレーザー光で構成された「光学トラップ(光のピンセット)」に閉じ込め、一直線に並べました。
光の力で原子を一つずつ捕まえて配列するこの技術は光学トゥイーザー(光ピンセット)と呼ばれ、近年の量子コンピューティングや精密計測で活躍しています。