そうした中、地元の飼育者たちは鶏肉や鹿肉などの“肉”を与えることで巣を大きく育ててきました。
彼らは実際に、野生のスズメバチが小鳥や小動物を捕食する場面を目撃しており、独自の知見に基づく飼育方法を実践していたのです。
ただこうした地元民の報告はあくまで主観的なものでしかなく、客観的な科学的証拠は得られていなかったのです。
そこで今回の研究は、こうした“経験知”が科学的に正しいかどうかを初めて検証しました。
DNA解析で判明!本当に鳥や哺乳類を食べていた
研究チームは、岐阜県と長野県に存在するシダクロスズメバチの巣を対象に、計12巣(野生巣5、飼育巣7)から終齢幼虫52個体を採取し、腸内に残された餌生物のDNAを分析しました。
使った方法は「DNAメタバーコーディング」と呼ばれるもの。
特定の遺伝子領域を解析することで、どのような生物が餌として取り込まれたかを特定することができます。
その結果、なんと事前の予想より遥かに多い合計324種もの餌生物が同定されました。
さらに驚くべきことに、その内訳には予想通りの昆虫やクモに加え、鳥類、哺乳類、両生類、爬虫類、魚類などの脊椎動物まで含まれていたのです。

注目すべきは、すべての巣から鳥類のDNAが、またほとんどの巣から哺乳類のDNAが検出されたことです。
これは鳥や哺乳類がシダクロスズメバチにとって“補助的な餌”ではなく、重要な捕食対象となっていることを意味します。
さらに飼育巣では、与えられた鶏肉や鹿肉のDNAが多く検出されており、人が与えた餌が自然界の捕食行動の一部を代替している様子が読み取れました。
また、地域の蜂飼育者たちへのアンケート調査では、80%以上の人が「蜂が脊椎動物を捕食する場面を見たことがある」と答え、58%が「野生巣産と飼育巣産では味が違う」と感じていました。