この疑問に答えるため、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)のスティーブン・ハイン(Steven J. Heine)教授らの研究チームは、「文化によって最適な睡眠時間が異なる可能性」を念頭に国際比較研究を行いました。
社会文化心理学者であるハイン教授と、主著者のクリスティン・ウー(Christine Ou)氏(ビクトリア大学看護学部)らは、世界20か国を対象に2つの調査研究を実施し、文化ごとの睡眠パターンと健康との関係を詳しく検証したのです。
研究のねらいは、平均睡眠時間が短い国の人々は本当に不健康なのか、そして各文化圏で「理想」とされる睡眠時間が健康にどう影響するのかを明らかにすることでした。
世界比較で見えた“文化別ベスト睡眠”

1.国別平均睡眠時間と健康指標の比較 –
研究チームはまず、過去に報告された国際調査から71か国の平均睡眠時間データを収集し、各国の健康統計(心疾患や糖尿病の有病率、平均寿命、肥満率など)との関連を分析しました。
所得水準や栄養状態といった健康に影響しうる要因も考慮に入れて統計解析を行った結果、国全体の平均睡眠時間が長いほど健康指標が良くなる、あるいは短いほど悪くなるといった単純な関係は見られませんでした。
例えば、平均睡眠時間が短い日本で心臓病が特に多いとか、長い国で寿命が延びているといった傾向は確認されなかったのです。
むしろ意外なことに、平均睡眠時間が長い国ほど肥満率が高い傾向が示されました。
これは「睡眠不足だと太りやすい」という従来の常識と逆行する結果で、短眠傾向の国だからといって必ずしも国民全体の健康状態が劣るわけではないことを示唆しています。