他にも、量子系の性質は測定行為に依存して初めて定まるとする文脈的実在論や測定の文脈依存性(コンテクスチュアリティ)の議論もあります。

今回の実験結果は、こうした「観測によって左右される現実観」を支持する実証的な例と言えるでしょう。

言い換えれば、量子力学の奇妙さの正体が「文脈依存(測定のしかた次第で性質が変わる)」という性質にあることを裏付けているのかもしれません。

今後、この手法を用いれば、量子力学の基本原理に関する他のパラドックス(例えば有名なシュレディンガーの猫や量子ゼノン効果などの思考実験)についても検証が進む可能性があります。

研究チームも現在、今回の方法を発展させ、他の一見逆説的な量子効果を次々に検証する計画とのことです。

最終的な目標は、「なぜ観測によって量子系が変化するのか」を包括的に理解し、量子力学が常識と食い違う理由を解き明かすことにあります。

その過程で得られる知見は、量子コンピュータや量子暗号などにおける量子の優位性の本質を理解する手助けにもなるでしょう。

コンテクスチュアリティ(文脈依存性)は量子が古典にはない計算能力や通信能力を発揮する場面と深く関わっているためです。

1個の光子が二か所に同時に存在しうる――かつては奇想天外に聞こえたこの主張が、いよいよ実験で裏付けられました。

多世界解釈を含む量子論の世界観に今、新たな視点と議論が生まれています。

私たちの現実は一体どのように決まっているのか。

量子の振る舞いを突き詰める研究は、日常の「現実」の概念さえも揺るがす可能性を秘めています。

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元論文

Experimental evidence for the physical delocalization of individual photons in an interferometer
https://doi.org/10.48550/arXiv.2505.00336