この研究により、量子の波動関数が示す重ね合わせが単なる計算上の概念ではなく、個々の粒子レベルで物理的現実として存在していることが実証されました。

「二重スリット実験で干渉縞が生じるとき、各光子は正確に2つの等しい“ハーフ”に分かれて両方のスリットを通過している」ことを示す証拠が得られたのです。

研究チームは「今回の結果は、将来の測定によって定まる文脈に物理的現実が依存していることを示すものだ」と強調しています。

この成果は、量子力学の解釈論に大きなインパクトを与えています。

中でも、多世界解釈に対する挑戦という点が注目されます。

多世界解釈では、観測による波動関数の収縮を認めず、あらゆる結果を包含する無数の世界が並行して存在すると考えます。

しかし今回、一つの世界の中で光子が二経路に存在したことが確認されたため、わざわざ「別の世界で別の経路を通った光子がいる」と仮定しなくても現象を説明できるのではないか、という議論を呼んでいます。

言い換えれば、「光子は観測まで両方の経路に存在し、観測によって一つの現実に収まる」というこれまでの理解に対し、「光子は最終的な行き先によって過去の存在の仕方が異なる」という新たな視点が提示されたのです。

多世界解釈の支持者からすれば、各結果はそれぞれの世界で起きたにすぎず今回も整合的に説明できるかもしれません。

しかし、少なくとも本研究は「一つの世界内で粒子の現実が文脈によって変わりうる」ことを示し、多世界解釈では当初触れられていなかった時間的な文脈依存の問題を突きつけたと言えます。

では、多世界解釈以外でこの結果をどう理解すればよいのでしょうか。

研究チームは「異なる測定が量子系の過去を形作る様子」をもっと深く理解する必要があると述べています。

このような考え方は、一見すると「未来が過去に影響を与える」ようにも思えます。

実際、一部の物理学者は量子論にレトロカウザリティ(逆因果性)と呼ばれる要素(未来の測定結果が過去の状態に影響するという考え方)を導入することで、この種の不思議な現象を説明しようともしています。