言い換えれば、一つの光子が二方向に「分身」し、両方の経路を同時に進んで合流したと考えれば、観測された結果と矛盾なく説明できるのです。

多世界解釈は1つの粒子が2つの場所に存在するのではなく1つの粒子が2つの並行世界にわかれて存在し観測によって世界線が収束するというもののはずです。

しかし今回の研究は弱い観測と統計処理を通じて、1つの粒子が1つの世界に2カ所同時にあるということを示し多世界解釈に対する1つの疑念を提示することになりました。

(※ただ多世界解釈が完全に否定されたわけではありません。多世界解釈的には「弱い観測では世界線がほとんど分岐せず、後の検出(強い測定)で“結果”が確定するときに枝分かれが顕在化する」と説明することもできるからです。多世界解釈も盛んに研究が続けられており、その結果、多少の不利な証拠では否定されなくなる「耐性」を身に着けています)

1つの光子が同じ場所に1個以上存在するケース

一方、干渉縞の暗い部分(本来ほとんど光子が到達しないはずの場所)でまれに検出された光子でも非常に興味深い結果が明らかになりました。

暗いはずの領域(破壊的干渉によって光子がほとんど到達しないはずの場所)でも、ごくまれに光子が検出されることがあります。

研究チームがそこでの光子の偏光変化を調べたところ、「ほぼ片方の経路だけを通った」と推定できるほど大きな偏りが観測されました。

これは、光子が両方の経路を等分に広がっていたわけではなく、ほとんど一方の経路に集中していたことを意味します。

ですがこれは、どちらかの経路のみを100%たどるという単純なものではありませんでした。

実験では、このように「一方の経路に強く偏り、もう片方にはわずかどころか“負の値”で存在する」という極端な振る舞いを「スーパーローカライズ(超局在化)」と呼んでいます。

数学的な言い方をすると、光子が通り道として占める“存在量”の合計は変わらないのですが、その内訳が「片方に1を超える分だけ集中し、もう片方はマイナスの寄与を持つ」形になるというわけです。