今回のヒジャブ法施行停止決定はイスラム強硬派との内部権力闘争におけるペゼシュキアン氏の重要な勝利だと見ている。同大統領はヒジャブ法に対して、「社会的反発だけでなく、新たな混乱を引き起こす恐れがある」と反対してきた。ヒジャブ法は、強硬保守派の前任者、エブラーヒーム・ライシ大統領(故人)の政権下で策定されたものだ。ソーシャルメディアでは、ヒジャブ法を「女性に対する宣戦布告」として激しく非難する声が広がり、議会が国全体を「巨大な監獄」に変えようとしていると批判されてきた。
ヒジャブ法に対しては、政府内からも批判の声があった。ハメネイ師の顧問、アリ・ラリジャーニ氏は「私たちにはそのような法律は不要で、せいぜい文化的な説得が必要だけだ」と述べている。また、元政府報道官のアブドラ・ラメサンザーデ氏もSNS「X」で、「この法律を過酷である」と非難し、「このような抑圧的措置は社会内の不満を増幅させるだけだ」と書き込んでいる。
イランでは2022年9月、22歳のクルド系イラン人のマーサー・アミニさん(Mahsa Amini)がイスラムの教えに基づいて正しくヒジャブを着用していなかったという理由で風紀警察に拘束され、刑務所で尋問を受けた後、意識不明に陥り、同月16日、病院で死去した。このことが報じられると、イラン全土で女性の権利などを要求した抗議デモが広がった。それに対し、治安部隊が動員され、強権でデモ参加者を鎮圧した。その結果、国内外から激しい批判の声が高まっていったことはまだ記憶に新しい。アミ二さんの死は「女性、生命、自由」というスローガンを掲げて全国に広がった大規模な抗議行動の引き金となった。
最近では、イランのミュージシャンであるパラストゥ・アフマディさんがヒジャブを着用せず、服装規定に反するドレスを着て歌い、そのコンサートをYouTubeに公開した。その結果、彼女とバンドメンバー2人は逮捕された。