むしろ、法の構造全体を見れば、第2条や第3条、29条等において、「供給不足時の混乱回避」や「需給の整合的調整を通じた安定的な供給」が重視されており、その前提として「整合性をもって」と明記されている点にも注意が必要である。
つまり、価格安定とは、本来、需給全体のなかで形成されるものであり、政府による恣意的な価格誘導によって実現されるものではない。
とくに今回のように、不祥事による農相交代を受けて、政治的アピールを意識して設定された価格が、結果として民間市場をゆがめるに至ったケースでは、「整合性を欠いた裁量の行使」として、制度趣旨に反する違法な政策運用と評価せざるを得ない。
法的責任と農家の選択肢
このような行政行為により農家や流通業者が不利益を被った、あるいは被る蓋然性が高い場合には、取消訴訟や国家賠償請求訴訟の対象となりうる。
とりわけ、需給に応じて市場価格が形成されている中で、政府がそれを大きく下回る水準を一方的に指定し、事実上の相場形成に介入した場合、経済的損失を被った農家が過失責任を追及する法的根拠を持つ余地は十分にある。
農家は、天候・需給・政策といった多様な不確実性を織り込んで経営判断を下している。とくに田植えや直播きの最中や直後に、政府が今回のように介入すれば、それは事後的に価格リスクを押し付けることになり、経営の安定性を根本から脅かす。
司法の場で違法性を問う意義
コメ農家はこの行政行為が違法であるとして、行政訴訟を提起し、措置の取消や損害賠償を求める法的権利を持っている。
裁量権の逸脱によって営業の自由や正当な価格形成が侵害されている以上、司法の場で違法性を明確にすることは、民主的統制の観点からも不可欠である。
今こそ価格指定の撤回を求めるとき
備蓄米の売渡しに関する随意契約の実施は、来週に予定されている。法的措置はその後の選択肢として残しつつ、いま最優先で求められるのは価格指定の撤回である。