「公共の利益のためであり、統制にはあたらない」との反論も想定されるが、価格誘導を目的とした行政介入が法定の枠組みや制度趣旨を逸脱して行われる場合、たとえ公益を掲げていても正当化されるものではない。むしろ、公共性を名目とした価格誘導こそが、競争秩序と価格形成の自由を侵害する重大な干渉である。

価格形成は、本来、需給バランスに基づいて市場で決定されるべきものであり、行政が介入すれば、憲法で保障された経済活動の自由を侵害しかねない。こうした価格指定は、市場原理をゆがめ、農家や流通業者の経済合理性を著しく損なう。

備蓄制度上の矛盾と放出条件の不備

主要食糧法では、備蓄米の放出は「主食用米の供給量確保に支障が生じる場合」に限定されており、実質的な供給不足が前提とされている。価格の上昇や高止まりのみを理由とする放出は、制度上の想定外である。

にもかかわらず、農水省は自らの作況指数を根拠に生産量不足を否定しており、今回の価格上昇の要因を「流通の目詰まり」と説明している。つまり、備蓄米放出の最低条件すら満たしていない。

市場への影響と損失の発生

価格誘導を目的とした“政治的放出”は、法の基本指針に反し、政府の恣意的裁量による市場干渉に他ならない。

とりわけ、政府が「安価な価格水準」を示すことで、それが市場価格の基準となり、全体に下方圧力をかける。これにより、農家の販売価格は押し下げられ、流通業者も「価格合わせ」を強いられることになりかねない。

たとえ備蓄米の一部であっても、政府の価格指示は実質的な強制力を持ち、民間市場への圧力として作用する。結果として農家・流通に損失が発生しうる。

「価格の安定」は政治的誘導ではない

主要食糧法第1条では、「価格の安定」も目的として掲げられているが、これをもって本件を正当化するのは誤りである。ここでいう「安定」とは、短期的・政治的な価格操作を容認するものではない。