今回の研究は、「どれだけ物体に関する情報を引き出せるか」という測定の情報量と、「それによってどれだけ物体を撹乱してしまうか」という擾乱の大きさが密接に結び付いていることを改めて示しました。
この関係自体は不確定性原理の基本にほかなりませんが、特に注目すべきは「光の散乱を最大化したときにバックアクションが消える」という直感に反する振る舞いが具体的に示された点です。
研究指導者であるジェームズ・ベイトマン博士は「本研究は、量子力学における情報と擾乱の関係について根本的な事実を明らかにしました。特に驚くべきことに、散乱光が最大になるまさにそのときに量子バックアクションが消失したのです。これは直感に反する現象です」とコメントしました。
さらに博士は「量子オブジェクト(粒子)の周囲環境を工夫することで、その物体に関する利用可能な情報を制御でき、したがってそれが受ける量子ノイズも制御できることを示しました。この発見によって、新たな量子実験の可能性が開け、より高感度な測定にもつながるでしょう」と述べ、環境エンジニアリングによる量子計測の新展開に期待を寄せています。
今回提案された鏡によるバックアクション低減手法は、量子計測や量子制御のさまざまな分野で応用が見込まれています。
例えばこの手法により、原子よりはるかに大きな物体でも量子状態(重ね合わせ状態など)を生成・維持できると考えられています。
前例のない大きな質量スケールで量子力学の基本原理を検証できると期待されています。
量子論と重力の境界領域(量子重力の予兆となる現象)を探る実験が可能になると考えられています。
極めて微小な力を検出する超高感度センサーを開発できる可能性があります。
特に、大型の物体を量子的な振る舞いのまま宇宙空間で観測しようという野心的な計画に、本研究の成果が役立つ可能性があります。
例えば欧州で提案されているMAQRO(マクロ量子振動子)計画は、これまでで最大規模の物体を用いて量子物理の原理を検証しようとする人工衛星ミッションであり、バックアクションの抑制技術がその成否を左右すると期待されています。