例えばBDSMコミュニティでは、プレイ前後の十分な話し合いや合意形成、アフターケアなど信頼関係に基づくコミュニケーションが重視されます。

こうした要素が心理的な安定や満足度を高めている可能性も考えられるでしょう。

実際、研究チームは「BDSM実践者はより健全な対人関係を築く傾向がある」とも解釈しています。

拒絶感受性が低く他者からの拒否を過度に恐れないため、「ありのままの自分を率直に表現できる傾向がある」というのです。

BDSMの場が彼らにとって安心できる自己表現の機会となり、他者との絆や自己肯定感を育む側面もあるのかもしれません。

もっとも、本研究には注意すべき限界もあります。

第一に、今回は1回限りの調査(横断研究)であり、因果関係を直接証明できないことです。

つまり「BDSMを実践することで心が安定した」のか「もともと安定した人がBDSMに惹かれる」のかは判別できません。

第二に、データは自己申告式アンケートに基づくため回答バイアス(社会的望ましさによる回答歪曲など)の可能性があります。

第三に、参加者の募集方法がSNS等による自選サンプルであるため、必ずしも一般人口を代表しているわけではありません。

加えて本研究はスペインの文化的背景に依存する部分もあり、他の地域や集団にそのまま当てはまるかどうかは慎重に検討が必要です。

このような点を踏まえ、結果の解釈には注意が求められます。

それでもなお、「BDSM実践者は心に問題がある」といった有害なステレオタイプを改めるべきだとする今回のエビデンスの意義は大きいと言えます。

研究者らも、医療者や教育者、社会一般がキンクコミュニティへの偏見や思い込みを見直す必要性を強調しています。

そしてさらなる追試研究、とりわけ縦断的なデータ収集(長期的な変化を見る研究)やより代表性の高いサンプルによる調査を呼びかけています。

BDSMが人間のセクシュアリティやメンタルヘルスの中で果たす役割を解明するには、こうした追加研究が不可欠でしょう。