またBDSM経験年数が長い人ほど、これらポジティブな傾向がさらに強まる(例えば拒絶感受性がより低い)ことも確認されました。
さらに解析によって、愛着・性格・幸福度など心理特性どうしの関連構造(心理的構造)は、BDSM実践者と非実践者で大きく変わらないことも示されました。
これはBDSM実践者は特定の特性の平均レベルこそ違うものの、心の基本的な仕組み自体は一般集団と変わらないことを意味します。
言い換えれば、BDSM嗜好の人だからといって特別な心理構造を持つのではなく、一般の人と同じ心の作りを持ちながら平均的にはより適応的な傾向を示すというのが今回の発見なのです。
なお本研究では被験者の多様性を活かし、ジェンダーやセクシュアリティによる違いについても分析が行われました。
その結果、性的指向ではバイセクシュアル・パンセクシュアルの参加者が他の層よりも親密な関係への不安が低い(他者との心理的距離にあまり不安を感じない)傾向があり、トランスジェンダーやノンバイナリー等の参加者は開放性が高くかつ拒絶感受性もやや高い傾向が見られました。
このように交差する属性ごとの特徴は、マイノリティとしてのストレス要因など社会的文脈を考慮する重要性を示唆しています。
偏見とエビデンスの大逆転劇

BDSM実践者の心理的プロフィールがこれほど良好だという結果は、「BDSM嗜好は心理的な問題の表れ」という古い見方と対極に位置します。
研究者らも「今回の知見は、BDSMが心の損傷や倒錯のサインだとする時代遅れの見解と真っ向から矛盾する」と強調しています。
むしろBDSMは健全な性的自己表現の一形態であり、個人の情緒安定や対人関係の良好さに結びつくポジティブな特性と関連していると示唆されます。