BDSMでの役割は伝統的には支配する側のドミナント(Dom=相手から主導権を預かる役)、従う側のサブミッシブ(Sub=主導権を明け渡す役)、そして場合に応じて両方を行うスイッチの3種に大別されます。

ただしこの分類はBDSMの「支配・服従(D)の側面」に偏っており限定的だとも指摘されています。

そこでプレイ中の痛覚に着目し、与え手の「トップ(加虐者)」、受け手の「ボトム(被虐者)」、および「スイッチ」という分類も提案されています。

つまりBDSMには身体的刺激を伴うSMの要素も含まれるのです。

歴史的にBDSMは長らく変質的・病的なものと見なされ、心理学的にも何らかの精神障害やトラウマの表れだというスティグマ(偏見)が存在してきました。

例えば「幼少時の虐待被害で歪んだ性嗜好になった」「愛着スタイル(他者との絆のパターン)が不安定だ」「パーソナリティに問題がある」等のレッテルです。

実際、2013年の調査では多くのセラピストがBDSM愛好者同士の関係は「不健全」だと考えていたとの報告もあります。

しかし近年、そうした見方に異を唱える研究が現れました。

代表的なものが2013年に発表されたウィスメイヤー&ヴァン・アッセンによる調査で、この研究ではBDSM嗜好を持つ人々はむしろ一般集団よりも心理的に機能的な特性を示し、性的興味による深刻な心理的害は確認されなかったと報告されています。

とはいえ単一の研究だけでは偏見を覆すには不十分であり、その後も複数の追試的研究が行われています。

例えばフィンランドで3000人以上を対象に実施された大規模調査では、先の2013年研究の主な所見が概ね再現され、この現象の一般性が裏付けられました。

以上のような背景から、スペインの研究チームは先行研究の結果を新たな集団で再現しうるかを検証すること、そしてBDSM実践者の中で役割や経験年数、性的指向・性自認などによる違いを詳しく探ることを目的に今回の研究を行いました。