この予想外のパターンを受けて、研究チームは時間知覚の仕組みについて改めて仮説を練り直すことになりました。
そこで後半の2つの調査では、期間に対する満足感とノスタルジーという感情面の要因に注目し、これらが自己成長と時間知覚の関係を説明しうるか検証しました。
分析の結果、期間への満足度が高い人、およびその期間を強くノスタルジックに感じている人ほど、時間がより速く過ぎたと感じる傾向が明らかになりました。
さらに統計モデルで満足感とノスタルジーの影響を考慮に入れると、自己成長と時間感覚との直接的な関連は消失します。
つまり、自己成長が時間の経過感に与える影響は、満足感とノスタルジーを高めることによる間接的なものだったと考えられるのです。
なお、満足感とノスタルジーでは影響力にやや差がみられ、満足感のほうがわずかに強く時間感覚に寄与していましたが、どちらの要因も有意な効果を持つことが確認されました。
時間が飛ぶのは“よく生きた証”──成長没入と憧憬が生む加速現象

こうした知見を踏まえ、研究チームは「時間があっという間に感じる」理由として新たに二つのメカニズムを提唱しています。
1つは成長没入と呼ばれる仕組みです。
自己成長につながる有意義で挑戦的な活動に没頭しているとき、人は時間の経過に気づきにくくなり、「気づけば時間が過ぎていた」という感覚が生じます。
この説では、そうした活動から得られる満足感によって時間の存在を忘れてしまい、いわば“フロー状態”のようになるため時間が飛ぶように感じられる、と説明します。
もう1つは成長への憧憬です。
自己の成長を遂げた時期を後から振り返ると、その特別で感情的に意義深い期間に対してノスタルジックな憧憬が生まれます。
その結果、その輝かしく印象深い期間がより一層儚く短く感じられるという見方です。