神は預言者サムエルを通じてユダヤ統一王国初代国王サウルに「今、行ってアマレクを撃ち、そのすべての持ち物を亡ぼし尽くせ」と命じたが、サウルはアマレクと闘い、勝利したが、アマレク人の王アガダを人質にして生かし、勝利品のよきものを残した。それを知った神はサウルに激怒し、「あなたは私の言いつけを守らなかった」と述べ、神の祝福はその後、サウルから離れていった。
この話をネタニヤフ氏に当てはめる。神はイスラエルの民1200人以上を殺害したハマスを壊滅せよと命じた。ハマスを生かしておけば、遅かれ早かれ彼らは再武装化し、イスラエルにテロを再び仕掛けてくるだろう。だから、ハマスを壊滅しない限り、イスラエル国家の安全は保障されない。ましてや、それが神の願いならば、ネタニヤフ氏には他の選択の余地がない。
神への信仰にはある意味で絶対的な献身が要求される。都合のいい時は信じ、都合が悪くなれば信じないといったことはできない。「ヨハネの黙示録」に記述されているように、「冷たいか、熱いか」のどちらかであるべきだ。最悪のシナリオはなまぬるい状況だ。
ネタニヤフ氏は「ハマス壊滅」を貫徹するか、ある段階で妥協して停戦に向かうかを考えるだろう。その場合、国際情勢や同盟国米国の出方も検討されるだろう。ネタニヤフ氏を批判する声は彼の耳にも届いている。「ガザでの軍事攻勢はこれぐらいにして終わるべきだ」という声が外からだけではなく、彼自身の内からも出てくる。
ネタニヤフ氏の悩みはトランプ米大統領やプーチン大統領のそれらとは異質だろう。神に約束したことを完全に貫徹するか、中途半端でやめるかの間にあって、ネタニヤフ氏は悩んでいるのだ。そんな悩みを抱えている政治家は多くはいないはずだ。
トランプ氏はガザ区のリゾート構想をネタニヤフ氏の耳元で囁いている。トランプ氏は神の召命を受けていると豪語していたが、同氏はひょっとしたら予言者かもしれないが、神ではない。