どこに行っても、インフレ・税制・医療の壁が立ちはだかってくる。本稿は「日本ではフルFIREが難しくなる」と言っているのではなく、「全世界でフルFIREが難しくなる」といっているのだ。
現時点ではベトナム、フィリピンやジョージア、アルバニアなどの新興低コスト国は残されている。だが、10年後は誰にもわからない。
「一定額の資産を確保できれば、世界中どこでも自由に働かずに生きられる」という理想的な人生戦略は、慎重に見直すべき時期に来ている。
AIは労働を開放するか?
一部では「もうすぐAIが労働から人間を解放してくれる」という話も出てきている。実際、最近のChatGPTやGemini、各種ロボティクスの進歩を見ると、確かに人間の出番は減るかもしれない。だが、テクノロジーの進化=FIREの実現ではないことには留意する必要がある。
というのも、「AIが代わりに働いてくれる社会」は、同時にその利益をどう分配するかという制度設計が必要になるからだ。
現実は、今のところAIの利益は巨大企業と一部の資本家に集中しており、「みんなが働かなくても食っていける」社会になるにはまだ何段階も先の話だ。
「AIがあるからFIREも簡単になる」「すべての人間が労働から開放され、暇つぶしが最大の課題。労働は贅沢品」という考え方は、少なくともこの10〜20年のスパンでは非現実的だ。
FIREの真価
ここまでFIREが難しくなる理由を述べてきたが、これは絶望させるために書いているのではない。むしろ、重要なのは「フルFIREだけにこだわらず、真価は柔軟な働き方にある」という柔軟な発想だ。
・月5〜10万円程度を稼ぎつつの「セミFIRE」 ・投資収入+軽い副業で暮らす「バリスタFIRE」 ・若いうちに資産を作って、50代以降は選択労働する「コーストFIRE」
フルFIREをやめてこうした“中間解”を選ぶ人たちは、すでに現れてきている。むしろ、現代における本当の贅沢とは「働かない」ことではなく「働くことを選べる自由」なのだ。