インフレが進めば進むほど、FIREで設定した「支出×25」のロジックが崩壊する。資産はあるが、取り崩すペースが追いつかない。「気づけば資金ショート」が現実になるわけだ。

もちろん、いきなり大恐慌が起きれば、消費が抑制されインフレ予想も変わる可能性はある。だが、それはそれでFIREの難易度を高める。「ただインフレにさえ気をつければいい」という話ではないのだ。

「失敗したら労働すればいい」は通じるか?

「FIREしたあとに、好きなことで稼げばいい」という人がいる。それ自体は確かに正論だ。しかし、この正論も今後はわからなくなった。

その理由はAIの進化が我々の想定を遥かに超える速さで起きているということだ。すでに多くの業務が自動化され始めている。

ゴールドマン・サックスの試算では、世界で約3億人の仕事がAIの影響を受けると言われている。この予想も上振れするかもしれない。これは裏を返せば、誰もがいつでも仕事を得られる時代ではなくなるということだ。

特に、「事務作業・翻訳・会計・ライティング」のような”スキルがあっても代替しやすい職業”は、真っ先に機械に置き換えられていっている。実際に、米国ではAI失業が現在進行系で進んでいる。FIRE後に何らかの理由で労働に戻りたくなっても希望の職種につくことは非常に難しくなる未来も考えておくべきだろう。

海外の事情はどうか?

「日本がダメなら海外移住してFIREすればいい」という声もある。実際、生活費の安い東南アジアやタイへ移住もひところ流行った。だが、その海外が今やFIREには向かない環境になりつつある。

アメリカでは医療費は年々高騰し、まともな保険に入るだけで年間100万円を超え、家賃も高い。欧州は社会保障は充実しているが、その分、税金が重く、富裕層への課税強化も進行中だ。また、東南アジアやバンコクやバリ島などは外国人の流入で家賃が急騰。格安移住の幻想は崩れつつある。