やがて瞳孔が散大し、脳死状態と見られるようになった。しかし心臓は動き続けており、「死亡」には至らない。そのため人工呼吸器も点滴も止めることができなかった。

そのうち病室には異様な臭気が漂い始め、やがて廊下の病棟の端近くまで、強烈な死臭が広がった。おそらく腹部、すなわち消化管内で腐敗が始まっていたのだろう。家族の見舞いは一度もなく、医師も手の打ちようがない。安楽死は違法のため、人工呼吸器を外すこともできなかった。そうして約1か月後、気がつけば「死亡退院」となっていた。

これは20年ほど前の出来事だが、当時ですら月100万円を超える医療費がかかっていたと記憶している。家族の支援がないなかで、本人や家族の意思が確認できなければ、治療の差し控えもできない。結果として、人工呼吸器による盲目的な延命が続けられたのである。

二つ目は、60代前後の生活保護受給者で、狭心症の患者だった例である。本来であれば、薬物治療と食事制限に努めることで自宅療養が可能な状態だった。ところが、ある日突然、心臓の冠動脈バイパス手術を受けていた。胸には30センチ近い手術痕が残り、術後の痛みで寝たきりになっていた。

生活保護受給者であれば、医療費の自己負担はない。病院側も費用の取りはぐれがないため、医療行為は自由に行える。これは、いわば「相互利益・共依存」の関係である。

医師にとっては症例数を稼ぎたい(あるいは手術の練習をしたい)。病院にとっては、冠動脈バイパス術のような高額手術(基本手技料だけで80万円以上)を実施すれば利益が見込める。そして、患者にとっても、「働けない理由」が病気として正当化されるため、生活保護を受け続けられる。三者がそれぞれ得をする、いわば「三方一両得」的な構図となっていた。

湿布と保湿剤が上位に並ぶ処方薬の現実

先頃、処方医薬品の保険給付額ランキングが報道された。1位は保湿剤、2位は湿布、いずれも高齢者御用達の薬である。しかしこれらを使えばスッキリ回復、しない。延々死ぬまで使い続ける、回復しないにも関わらず。はては「美容クリーム代わり」に求める者すら多いとか。