するといずれのケースでも、結合された時間結晶が「止まらない振り子」として協調して動くと、静止した状態(振動なしの落ち着いた状態)よりも多くのエネルギーを蓄えられ、効率も高いことがわかったのです。

とくにおもしろいのは“感染充電”のケースで、あとから振動し始めた方が、より長く振幅(=蓄えられたエネルギー量)を保てるという結果になりました。つまり、一度振動リズムを獲得した結晶は、自分の揺れを維持しやすく、エネルギーを熱などに奪われにくくなるというのです。

「どうしてそんな都合のいいことが起きるのか?」――ここには時間結晶の不思議な特徴がかかわっています。

時間結晶の振動は、周囲のノイズにさらされてもリズムを崩しにくい(位相が乱されにくい)という性質があります。

ちょうど、トップ(コマ)が回り続けているときに重心が安定するように、振動自体が“バランスを保つ”働きをするのです。

このおかげで、エネルギーが外に逃げにくい状態をキープできます。

つまり、外から与えられるエネルギーが振動にうまく貯め込まれ、振動が止まらないかぎりそのエネルギーは「時間上の振幅」として保持される――これが“時間の中にエネルギーを蓄えている”ように見える理由です。

本研究を率いるフェデリコ・カロロ准教授は、この状態を「二つの結晶が共鳴すると、振動がエネルギーを抱え込む“量子ハンモック”になる」と表現しています。

ハンモックの揺れに身をあずけるように、二つの時間結晶が振動を続けながらエネルギーを保つ――それが量子電池の中核になり得るのです。

これは化学反応やイオン移動を利用している従来の電池とはまったく異なるメカニズムで、「時間の振動」を丸ごと蓄電に使う――この斬新な発想が「時間結晶電池」の最大の革新性です。

まだ理論段階ではありますが、「ただ二つの振り子(時間結晶)を結合してやるだけで、長くエネルギーを保てる」という結果は私たちのエネルギー利用の常識を覆す可能性があります。