たとえば「笑顔」は生まれつき備わった反応であり、誰に教えられなくても自然とできるものですが、「火起こし」は学ばないとできません。
これを踏まえて研究者らは、ダンスや子守唄は笑顔ではなく、火起こしに近いもので、後天的に「学ぶべき文化」であると位置づけています。

今日のように、世界中で似たような音楽や子守唄の形式が見られるのは、本能ではなく「文化の収斂進化(しゅうれんしんか)」によるものかもしれない、と研究者らは指摘します。
(※ 収斂進化:別々のグループで独自に同じ形質が進化する現象のこと)
つまり、人々が似たような目的(赤ちゃんをなだめる、集団の団結を高めるなど)のために、独立して似たような手段を生み出してきたという考え方です。
そして今回の研究が示した最大の意義は「人類に普遍だと思われていた文化的行動も、失われることがある」という事実に他なりません。
ダンスや子守唄がない社会は、極めて稀かもしれませんが、そうした社会が存在したということ自体が人間文化の多様性と同時に、その脆さを浮き彫りにしています。
私たちが当たり前だと思っている行動も、実は学び伝えられた文化に過ぎない。 そのことを北アチェの静かな暮らしが教えてくれるのです。
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参考文献
Study Suggests Dance and Lullabies Aren’t Universal Human Behaviors
https://www.ucdavis.edu/news/study-suggests-dance-and-lullabies-arent-universal-human-behaviors
元論文
Loss of dance and infant-directed song among the Northern Aché
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.04.018