踊りや子守唄は、人類の本性に深く根ざした文化だと長らく考えられてきました。
これまでの多くの研究でも、踊りと子守唄はすべての人類に共通して見られるものと報告されています。
しかし今回、米カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)の最新研究が、この常識に一石を投じました。
研究チームはパラグアイに暮らす先住民族「北アチェ(Northern Aché)」において、踊りや子守唄が全く存在していないことを明らかにしたのです。
なぜ北アチェ族は、踊りや子守唄を持たないのでしょうか?
研究の詳細は2025年4月29日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されています。
目次
- 踊りと子守唄を持たない民族
- なぜ踊りと子守唄がないのか?
踊りと子守唄を持たない民族
赤ちゃんが泣いているとき、子守唄を歌ってあやした経験がある人も多いでしょう。
また世界中のどの文化でも、ダンスや歌は祝祭や儀式の場に不可欠な存在です。
実際、これまでの文化人類学や進化心理学の研究では、ダンスや子守唄は「人類に普遍的な行動」と考えられてきました。
その背景には、音楽が母子の絆を深めたり、踊りが集団の団結を強めたりする進化的な適応であるという理論があります。

ところが今回の研究では、これまで「当然存在する」と考えられていた行動が、ある民族には全く見られないことが示されました。
調査対象となった北アチェは、南米パラグアイ東部に住む狩猟採集民で、長らく外部との接触が限られていることで知られます。
彼らの暮らしは非常に独自で、人口はすでに1500人ほどにまで縮小しています。
火起こしの文化も失われており、彼らは絶えず熾火(おきび)に息を吹きかけて火を絶やさないようにしているのです。
研究者たちは、この民族の生活を1977〜2020年の43年間にわたって観察し、文化行動を詳細に記録してきました。