そもそも「預かり金じゃないから益税はない」という主張自体が支離滅裂だ。

同じ税制のもとで、納税義務のある人とない人がいれば、納税しなくてよい人が得をするのは明らかだ。

税理士が、設立後2期は納税義務がないことを利用して、個人事業から法人成りさせたり、複数法人の設立を提案していたことは周知の事実だ。

それを今さら、「消費税に益税はない」などと、どの口が言うのか。

だいたい、インボイスと益税には直接的な関係はない。

もちろん、結果的には関係するが。

消費税の課税標準は、実際には事業者の「売上」である。

しかし、流通過程で全事業者の売上に課税してしまえば、税の重複が生じる。

仕入れや経費の支払いは、相手側にとっては売上であり、そこに消費税が課税される。

であれば、支払った側ではその消費税を控除できるようにしよう、という仕組みだ。

ところが、日本ではとにかく制度の導入を優先した結果、実際に支払先が納税しているかどうかの証明は求めないという、ずさんな制度となっていた。

税率が3%だった頃ならまだしも、5%、8%、10%と上がり、今後さらに上がる可能性もある以上、きちんと納税を確認する制度が必要となった。

それがインボイス制度である。

ずさんな制度を正そうとすれば、当然、事務負担は増える。しかし、それは正しい方向への転換なのだ。

付加価値税を導入している国で、インボイス制度を採用していない国はもはや存在しない。

日本だけが、唯一「補助輪付きの付加価値税」を続けてきたわけだ。

それだけ、付加価値税においてインボイスは当然の制度ということだ。

とはいえ、零細な免税事業者からすれば、「そんな益税なんか手にした覚えはない」と言いたくなるのも無理はない。

だが、それが本当に手元に残っていたかどうかは、また別の話だ。

それは益税かどうかとは関係なく、発注者とのパワーバランスによって誰がその分を吸い上げたかという話にすぎない。