ここからウィルキンスは「地球の磁力がおよぶ範囲さえ脱出できれば、月に向かうことは可能だ」と考えたのです。
そして、幾何学や三角法を駆使して、地球の磁力がおよぶ範囲は、地上から上空20マイル(約32キロ)という答えを導きました。
つまり、上空32キロを超えれば、もはや地球に引っ張られることはなく、あとは月面への順風満帆な旅ができる、と予想したのです。

ただ、これがあり得ない話であることは、私たちには分かっています。
地球の大気は4つの層に分けて考えられ、地上から上空10キロまでを「対流圏」、10〜50キロを「成層圏」、50〜80キロを「中間圏」、80キロ以上を「熱圏」とします。
一般には、上空100キロが地球と宇宙の境目と定義され、映画でよく目にする「ロケットの大気圏突入」は120キロ付近です。
また、スペースシャトルやISS(国際宇宙ステーション)が飛行しているのは、高度400キロあたり。地球から月までの距離は、およそ38万4400キロです。
これを踏まえると、ウィルキンスの予想した「上空32キロ」は、まだまだ地表に近い場所であり、このラインを超えたところで、地球の引力から解放されることはありえません。
しかし、そんなことはつゆ知らず、ウィルキンスは持論を推し進め、ついには、月面旅行を実現させる「有人ロケット」まで考え出しました。
最後に、そのトンデモなロケットを見ていきましょう。
月面旅行は「空飛ぶ四輪車」で可能⁈
ウィルキンスは、1648年の著書『Mathematical Magick; or, The wonders that may be performed by Mechanical Geometry』の中で、不思議な機械の設計図をいくつも記載しています。
その一つとして考案されたのが、人を月に運ぶための装置「空飛ぶ四輪車(Flying Chariot)」です。