孤独がこれほどまでに個人と社会を蝕むものであるなら、私たちはどう向き合えば良いのでしょうか。

幸い、孤独の問題に対して世界各国でさまざまな革新的な試みが始まっています。

その一つが医療とコミュニティを結ぶ新しいアプローチである「社会的処方(ソーシャル・プリスクリプション)」です。

例えばイギリスの一部地域では、医師が孤独を感じている患者に対し、薬の処方箋を書く代わりに地元のサークル活動やボランティア団体を紹介する取り組みが行われています。

ガーデニングクラブへの参加券や美術館の無料招待券が「処方」されるケースもあり、実際に不安や孤独感の軽減に効果を上げていると報告されています。

特に自然の中でのグループ活動を促す社会的処方プログラムでは、参加者の不安が有意に減少し、幸福度が向上した例が見られます。

薬に頼るだけではなく、人と人との結びつきを「治療」に活用するという発想は、まさに孤独による慢性炎症に対する社会的な特効薬と言えます。

実際、地域社会での交流や奉仕活動に積極的な人ほど、健康状態が良く幸福感が高いという研究報告があります。

こうして人とのつながりが回復すれば、互いへの信頼感も蘇り、怒りや不安に支配されにくい社会が実現しやすくなるでしょう。

これは社会全体で見れば「免疫力の回復」にほかなりません。

ハンナ・アーレントは、どれほど孤独が深刻化したとしても、それは「可逆的(reversible)」な状態だと論じています(※アーレントの著作全般からの趣旨)。

つまり、人々が連帯して共通の世界観や信頼関係を取り戻すことができれば、社会は健全さを回復できるのです。

孤独による慢性炎症に対処し、人々のつながりという名の治癒力を最大限に引き出せるかどうかが、今後の民主主義社会の方向性を左右すると言っても過言ではありません。

幸い、世界各地で始まったさまざまな挑戦は、孤独に苛まれた社会にもなお希望があることを示しています。