具体的には、視床下部—下垂体—副腎系(HPA軸)が過度に活発化し、ストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌されるのです。
このホルモンバランスの乱れは炎症反応を高め、免疫機能を弱体化させるとされています。
例えば血液検査で炎症の指標となるCRP(C反応性タンパク)などが上昇しやすくなる可能性も指摘されています。
このように孤独は体にとって、慢性的な炎症を誘発する大きなリスク要因と言えます。
健康面での影響も無視できず、孤独な人ほど高血圧や睡眠障害、さらにはうつ病や不安障害などメンタルヘルスの不調を抱えやすいことが多くの研究で示されています。
ブリガムヤング大学のジュリアンヌ・ホルト=ランスタッド教授によるメタ分析では、十分な社会的つながりがない人は、喫煙を1日15本行うのと同等のリスク増で早死にしやすい可能性があると報告されています。
孤独や社会的孤立が肥満や運動不足以上に健康に悪影響を及ぼすという結果もあり、もはや孤独は「気持ちの問題」にとどまらず、医学的にも放置できない状態と言えます。
しかし孤独が攻撃するのは体だけではありませんでした。
孤独は社会を激化させる主要因になり得るのです。
孤独が社会を攻撃する理由

興味深いことに、孤独による「炎症反応」は個人の体内にとどまらず、社会という有機体にも起こり得ると考えられています。
ハンナ・アーレントは著書『全体主義の起源』(1951年)で、孤独こそが全体主義、すなわち極端な権威主義を生み出す温床になると指摘しました。
彼女によれば、人々が孤立し、互いへの信頼や共通の現実感覚を失った社会では、極端なイデオロギーに染まりやすくなるといいます。
事実が見えにくい状況下で、現状への怒りと不安のみを共有する「怒れる群衆」が生じたとき、権威主義的な指導者が付け込む余地が生まれるのです。