これは現在、暗黒物質と暗黒エネルギーの密度がほぼ同程度であるという「宇宙論の偶然の一致」問題にも新たな視点を与える可能性があります。
本論文ではさらに、このモデルの持つカイラル対称性の破れが物質と反物質の非対称(バリオン数過剰)と関連する可能性や、宇宙膨張速度を巡る「ハッブル張力」問題の解決にも寄与し得ることが示唆されています。
これらはまだ初期段階の議論ですが、一つの理論が持つ射程の広さとして大変興味深いポイントです。
総じて、ダートマス大学の研究チームが提示したこの新理論は、長年行き詰まりを見せていた暗黒物質研究に大胆な一石を投じる独創的アプローチと言えます。
初期宇宙における粒子のダイナミックな相転移という新視点は「冷たい暗黒物質」という既成概念にとらわれない自由な発想から生まれました。
同時に、このモデルは驚くほどシンプルでありながら現象を見事に再現してみせたことで理論に説得力を与えています。
そして何より、この仮説は机上の空論に留まらず、近い将来の観測で確かめられるチャンスがある点で非常にエキサイティングです。
コールドウェル教授も「新しいダークマターの考え方、そしてひょっとするとその正体の特定に向けた全く新しいアプローチだ」と期待を語っています。
光速で駆け抜けた粒子がペアとなり“凍りつき”、宇宙の暗闇を満たす質量へと変身したという壮大な仮説が、果たして現実の宇宙で起きていたのか。
今後の観測と研究がその真偽を明らかにしてくれることでしょう。
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元論文
Cold Dark Matter Based on an Analogy with Superconductivity
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.134.191004
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。