複雑な現象を説明するために余分な仮定を投入するのではなく、最小限のシンプルな枠組みで宇宙の謎に迫るエレガントさがこの理論の説得力の源と言えます。

さらにこの理論が真に画期的なのは、具体的な観測で確かめられる予言を持っている点です。

どんなに美しい理論でも、実験や観測で検証されなければ単なる仮説に留まります。

本モデルは宇宙背景放射(CMB)など既存の天文データで検証可能な「指紋」を残すと予測しています。

ペア凝縮によって暗黒物質の状態方程式(圧力とエネルギー密度の関係を示す値 w)が時間とともに変化したことで、CMB の温度ゆらぎや偏光パターンに独特の影響が刻まれるとされています。

幸い CMB の精密観測はプランク衛星などによって既に極めて高い精度で行われており、今後はチリのシモンズ天文台や CMB-S4 計画といった次世代プロジェクトも控えています。

これらのデータを詳細に解析すれば、提案されたシナリオが妥当かどうかを確かめられる可能性があります。

コールドウェル教授は「これはエキサイティングなことです。私たちはダークマターについて考え、そしておそらくは特定するためのまったく新しいアプローチを提示しています」と述べ、観測による検証への期待を語っています。

注目すべきは、この理論が暗黒物質だけでなく暗黒エネルギーの謎にも光を当てる可能性です。

論文によると、もし上記の相互作用を持つフェルミ粒子が最初から完全な質量ゼロではなくわずかに質量を帯びていた場合、宇宙冷却の過程で相転移が途中で「挫折」し、粒子が高エネルギーの「偽の真空」と呼ばれる準安定状態に取り残される可能性があります。

その準安定状態の潜在的エネルギーが宇宙の加速膨張を駆動するダークエネルギーとして機能しうるというのが研究チームの主張です。

もしこのシナリオが正しければ、暗黒物質と暗黒エネルギーという宇宙の二大謎を単一の枠組みで説明できるかもしれません。