そんな中飛び出したのが財務省が5月20日に行った20年利付国債入札の不調でした。特に平均落札価格と最低落札価格の差である「テール」が1円14銭と1987年以来の水準となり、専門家が「衝撃的」と称するほどの不調ぶりだったのです。国債入札では金融機関が買いたい金額を入札するのですが、需要が大きければテールと称する入札された価格のばらつきが少ない一方、今回のように価格差が大きい場合は需要が少ないことを意味します。

本件、ブルームバーグ、日経とも大きく取り上げています。専門的な分野になるのでかいつまんで説明すると日本の長期、超長期国債の魅力が剥がれている中、日銀が国債の買い入れを縮小させており、国債の買い手不在になっており、特に国内機関投資家の動きが弱く、海外勢頼みということです。

当然ながら市場では10年物などの長期やそれより長い超長期国債の利回りが上昇(国債価格が下落)しています。国債は満期まで持ち、その時発行者が健全であれば満額が返ってきますが、国債価格が下落している趨勢を考えると機関投資家は「買ってもすぐに含み損」が生じるわけで「そんなものは買いたくない」というわけです。ということは新発国債の利率が市場の期待度とマッチしていないということになり、日本は利上げせざるを得ない雰囲気が遠くからひたひたと迫ってくる感じがあるのです。もちろん、今日明日という話ではありません。ただ、10年単位のスパンで考えた時、その時の市場を想像しにくく、故にプロの運用者たちも萎えていると申し上げたらよいのでしょうか?

日本が長期にわたり低金利を維持できたのは黒田氏が日銀総裁の時にテクニカルにいじり過ぎた結果だと思うのです。私は当時から懐疑的なコメントを出していました。氏の時代は日本経済再生のために必死の防戦(=ゼロ金利、マイナス金利政策)をしたのです。そしてその間に経済の体力が自律回復し2%のインフレ率を達成する目論見でした。これが皮肉にも違う理由で氏が総裁在任時の最終年にインフレが実感されるようになり、植田総裁になってからはインフレ対策と黒田氏の置き土産の整理に追われている状況だと考えています。