封鎖された区域で、軍事攻撃が続いているまま、人道支援の停止が進められているわけで、住民にとっての人道惨禍のレベルは尋常ではない。23年10月以来、5万3,000人以上のパレスチナ人が死亡し、人口のほぼ全てが避難を余儀なくされたうえで、飢餓の危機にさらされていると考えられている。

私は、紛争分析から平和構築の政策の研究を専門にしている学者である。ガザも訪問したことがある。そのときに私が講演した大学は、23年10月の段階で木っ端みじんに破壊された。戦場取材をするのは私の役目ではないが、私は、ウクライナやソマリアのような戦争が続いている国の都市部や、紛争終結直後の地域などには、数限りなく訪問している。紛争の理論のみならず、歴史的事例なども、努めて勉強するように心がけている。およそ600万人が犠牲になったとされる20世紀欧州のユダヤ人のホロコーストから、数百万人単位の犠牲が出たとされる北米大陸のネイティブ・アメリカンの掃討政策など、戦争にまつわる悲惨な歴史的事例を勉強するだけでなく、まだ多数の遺体が散乱するルワンダの虐殺現場などには訪問したことはある。外国人が先住民に対して持ち込んだ悲惨な事件の事例としては、大航海時代のヨーロッパ人の来訪以降に、南北アメリカ大陸が経験した先住民の人口減少がある。数千万人の単位の犠牲を出した事例であると考えられている。大西洋奴隷貿易で奴隷として連れ去られたアフリカ人の数は、少なくとも一千万人以上と考えられている。アフリカ西岸の各地で、奴隷貿易の遺跡などを見ると、本当に胸が詰まる。

これらのいずれの事例と比較しても、現在のガザの悲惨さは、同じように人類史に残るレベルだと思う。殺害された人の数だけであれば、もちろんもっと多くの犠牲者が出た事例はある。現時点でも、世界各地で、戦争の惨禍で悲惨な犠牲となっている人々は何万人もいる。