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2025年5月、米国フロリダ州で画期的な法案が可決された。議会は、気候工学(ジオエンジニアリング)や天候改変行為を犯罪とする法案「SB 56」を通過させ、違反者には最大5年の懲役と10万ドルの罰金が科される見通しだというのである。法案はすでに上下院を通過し、デサンティス州知事の署名を待つ段階にある。

フロリダ州の気候工学禁止法

この法律は、気温、降水、日射量などに意図的に介入する目的で、化学物質や装置を使って大気に影響を与える行為を禁止するという内容である。対象には「銀ヨウ化物」「二酸化硫黄」などの重金属を用いた雲の種まき(人工降雨)や、成層圏に微粒子を撒いて太陽光を反射する「太陽放射管理(SRM)」などが含まれる。加えて、空港や施設の運営者には、毎月の報告義務まで課される。

このニュースを紹介した米エポックタイムズ紙(2025年5月1日)によれば、法案提出の背景には市民の強い懸念がある。近年、飛行機雲が不自然に長時間空に残ることや、空の色の異常などを訴える声がSNSで拡散し、健康への影響を疑う人々が増えていた。州議会はこれらの懸念に応え、先手を打つかたちで法制化に踏み切った。

こうした動きは、単なる「陰謀論への配慮」と片付けるには早計である。なぜなら、雲の種まきやSRMはすでに技術として存在し、一部では実験的に実施されているからだ。アメリカではベトナム戦争時の「Operation Popeye」など、過去に軍事目的で人工降雨が行われていた事例もある。近年では、ハーバード大学を中心に成層圏エアロゾル散布の小規模実験も計画されてきた。

つまり、技術はすでにある。問題は、そのガバナンスと認知のあり方だ。

気候工学とは

ここで改めて確認したいのが、「気候工学」とは何か、という基本的な問いである。気候工学とは、人為的な手段で地球規模の気候システムに介入し、地球温暖化を抑制しようとする一連の技術を指す。大きく分けて次の2系統がある。