アメリカのテキサス大学オースティン校(UT Austin)で行われた研究によって、分子の鎖にコンピュータの11文字パスワードをそっくり書き込み、電気信号だけで読み出してPCを解錠するという“分子メモリ”技術が実証されました。
これは分子に情報を書き込み、電気信号によって読み出すという世界初の試みであり、将来的には新しいデータ保存技術につながると期待されています。
しかし電気信号だけでどうやって読み込みが実現したのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年5月16日に『Chem』にて発表されました。
目次
- HDDの限界を超える「分子メモリ」構想はこうして生まれた
- 「鍵」は分子の中に──分子の鎖がPCロックを開けた瞬間
- 分子ハードドライブ時代へのロードマップと残る課題
HDDの限界を超える「分子メモリ」構想はこうして生まれた

現在、ハードディスクやフラッシュメモリなどの従来型ストレージには限界が見え始めています。
大容量化は進んだものの、これらの装置は寿命が平均5〜10年と短く、長期的なデータ保存には不向きです。
また常時の電力供給や維持管理コストも大きいという欠点があります。
デジタルデータの爆発的増加に伴い、高密度で低コスト、長寿命の新たな記憶媒体が求められているのです。
その有力な候補として注目されているのが分子による情報記録です。
中でもDNAは、4種類の塩基(A・T・G・C)という限られた“文字”で私たちの遺伝情報を膨大に保存しており、高い情報密度と長期安定性を両立する分子メモリの実例と言えます。
研究チームのプラヴィーン・パスパシ氏は「分子は電力を必要とせず非常に長期間にわたり情報を保存できます。自然がその可能性を証明してきました」と指摘しています。
近年、DNAを使って数百キロバイトからメガバイト規模のデータをエンコード(情報を別の形にする)したり復元したりする実験も成功しており、分子記憶媒体としての可能性が示されてきました。