「引っ張れば伸びる」という現象は、誰もが疑うことのない物理の常識です。

輪ゴムでもスプリングでも、外から力をかけて引っ張れば、当たり前のように長くなります。

しかしこの常識を覆すような、「引っ張ると縮む」構造が開発されました。

この一見矛盾したような挙動を示す構造を開発したのは、オランダのAMOLF研究所のチームです。

彼らは「カウンタースナッピング」と呼ばれる理論現象を、世界で初めて物理的に実現可能な弾性構造として構築することに成功したのです。

この成果は、2025年4月17日付の『PNAS』誌に掲載されました。

目次

  • 引っ張ると縮む構造「カウンタースナッピング」
  • 力が加わっていくと「急に短くなる」構造の応用例

引っ張ると縮む構造「カウンタースナッピング」

私たちが日常で扱うほとんどすべての物体は、力を加えるとその方向に変形します。

とくに「引っ張ると伸びる」「押すと縮む」といった挙動は、バネやゴムといった弾性体において自然な振る舞いとされてきました。

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物理の常識「引っ張ると伸びる」 / Credit:Canva

そして、「スナッピング(snapping)」という現象もあります。

これは、ある構造に力をかけていったとき、ある閾値を超えると一気に別の形へと切り替わる現象を指します。

たとえば、ペンのノック機構を押すと「カチッ」と跳ねて切り替わる動き、これもスナッピングの一種です。

これらの動きでは、ゆっくりと力が加わっていきながら、ある瞬間で急激な形の変化が生じます。

そしてこれらのスナッピング現象に共通する基本的な特徴は、構造の変形が外から加えた力の方向と同じ向きに起こるという点です。

押せば押し込まれ、引けば伸びるといったように、力に沿って変形が進み、その途中で一気にスナップ的な動きが発生します。

では、加えた力と逆方向のスナッピングを生じさせることは可能でしょうか。

AMOLFの研究チームは、そんな新しい構造の開発に取り組みました。

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3種のバネを組み合わせて、引っ張ると縮む構造「カウンタースナッピング」の開発に成功 / Credit:AMOLF