医師が医療ガスライティングをしてしまう背景には、時間に追われる診察環境や、医学教育において患者の主観的な訴えを軽視しがちな文化、原因特定の難しさなどがあります。
また、医師自身が無意識に持っている性別や人種、年齢に対する固定観念が、診断や対応に影響を与えることも少なくありません。
問題が顕在化した大きな契機は「長期COVID」の拡大です。
新型コロナウイルス感染症から回復した後も、倦怠感や集中力の低下などの症状が長期間続く「長期COVID」患者が急増しました。
しかしその多くが医師に「もう治っているはず」「原因不明だから様子見」と言われ、診断も治療も進まない状況に直面したのです。
そこでラトガース大学の研究チームは、このような症状の否定が患者にどのような悪影響を及ぼすのかを、質的研究を通じて体系的に明らかにすることを目的に、本調査を開始しました。
研究者たちは、線維筋痛症、子宮内膜症、長期COVID、過敏性腸症候群、全身性エリテマトーデスなど、検査結果に異常が現れにくい13種の慢性疾患に関する151本の研究論文(合計11,307人の患者)を対象に、「症状が信じてもらえなかった」体験を分析しました。
この分析は、患者の言葉やエピソードから意味や感情を抽出するメタ・シンセシス(質的研究の統合分析)という手法で行われ、研究チームはそこから共通するパターンを見出し、階層的な分析を通じて4つの主要な影響領域を導き出しました。
医療ガスライティングが患者に及ぼす「4つの悪影」とは?
研究で明らかになった医療ガスライティングの影響は、大きく4つに分けることができます。
まず1つ目は、感情と信念へのダメージです。
症状を否定された患者は、自分の感じていることが間違っていると思うようになります。
その結果、羞恥心や自己否定、怒り、孤独感、無力感、さらには自殺願望を抱くことに繋がる場合があります。