「この発見によって、カラビ・ヤウ多様体の物理的な重要性を具体例で示せれば、自然界の現象を照らし出す新しい焦点を得られる」と、研究チームのグスタフ・ウーレ・ヤコブセン博士(マックスプランク重力物理学研究所/フンボルト大学)は語ります。
言い換えれば、今回の成果は長年仮説上の存在だったカラビ・ヤウ幾何が実際の物理において有効に機能する可能性を示すもので、理論と実験の橋渡しとして期待が高まるでしょう。
今回のブレークスルーは、量子場理論の散乱解析を一般相対論の難問に応用し、スーパーコンピューターを活用した大規模計算によって成し遂げられました。
主導したヤン・プレフカ教授(フンボルト大学)は「こうした学際的アプローチが、“原理的に不可能”とみなされていた壁を乗り越える好例になった」と述べています。
今後、研究チームはさらに高次の計算に挑み、得られた結果を次世代重力波観測のテンプレートへと組み込み、散乱重力波の検出を目指す計画です。
ブラックホール散乱に垣間見える弦理論の兆候は、まだ始まりに過ぎないのかもしれません。
宇宙最大級のブラックホール現象と究極理論としての弦理論との交差点で、新たな研究の地平が拓けようとしています。
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元論文
Emergence of Calabi–Yau manifolds in high-precision black-hole scattering
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08984-2
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部