語られざる人々の生と死、そして突然の終焉

 アトリット・ヤムからは、当時の人々の埋葬の様子も明らかになっている。村の中からは複数の人骨が発見されており、その中には女性と子供が一緒に丁寧に埋葬された例も見つかった。これは、文字記録のない時代の社会的な絆や埋葬習慣を知る上で非常に貴重な手がかりとなる。

 科学的な分析の結果、この女性は結核を患っていたことが判明した。これは、考古学記録における結核の最も古い事例の一つとされ、結核の起源をそれまでの定説より数千年も遡らせる大発見となった。

 しかし、この共同体の終焉は、個々の死とは比べ物にならないほど劇的なものだったようだ。アトリット・ヤムは、戦争や飢饉、あるいは徐々に衰退していった痕跡もなく、ある日突然、完全に放棄されたように見える。

 最も有力な説は、遠くシチリア島のエトナ火山の山体崩壊によって引き起こされた巨大な津波が地中海東岸を襲い、村全体を飲み込んでしまったというものだ。沿岸部の地質調査もこの説を裏付けている。もしそうなら、アトリット・ヤムの人々は逃げる間もなく、家も財産も、そして命さえも一瞬にして海に奪われたのだろう。

ピラミッドより古い謎の海底都市「アトリット・ヤム」 ‐ 水底に眠る新石器時代の記憶
(画像=By Hanay, CC BY-SA 3.0, Link,『TOCANA』より 引用)