現代では信じられないことだが、20世紀初頭から中頃にかけて、放射性物質を配合した製品が「健康的」「未来的」といったイメージで市場に出回っていた。まるで万能薬のように扱われた放射能。ここでは、かつて人々が日常的に使用していた、驚きと恐ろしさを伴う「放射性製品」の数々を振り返る。

「元気の素」は放射能? 口にする、肌に塗る…日常に溶け込んだ見えざる脅威

■ラジウム入り「奇跡の霊薬」飲料:ラディトール

「飲む放射能」「塗るウラン」「”入れる”ラジウム」⁉ 戦慄の”放射性”健康・美容グッズ史!
(画像=国立原子力博物館に展示されているラディトールの瓶 Sam LaRussa from United States of America – Radithor, CC 表示-継承 2.0, リンクによる,『TOCANA』より 引用)

 1920年代のアメリカで、「ラディトール」という名のラジウム入り飲料が、精力増進など様々な効果を謳って販売された。高価だったため購入者は富裕層に限られたが、ラジウムの危険性は当時から知られており、1932年に政府によって販売が中止された。その「科学的根拠」とされたのは、イモリの求愛行動に関する研究だったというから、現代の感覚では驚きを禁じ得ない。

■貧血改善の「切り札」? 放射性鉄分入りチャパティ

 1960年代のイギリスでは、南アジア系移民女性の貧血対策として、放射性同位体の鉄分を含んだチャパティ(薄焼きパン)を用いた研究が行われた。被験者に十分な情報提供がなされなかった可能性が高く、倫理的な問題点が後年厳しく批判された。研究自体は鉄分の吸収率を測定し食生活改善に繋げるという目的だったが、その手法はあまりにも拙速だったと言えるだろう。

■「輝く白い歯」の秘密はトリウム? ドラマッド歯磨き粉

「飲む放射能」「塗るウラン」「”入れる”ラジウム」⁉ 戦慄の”放射性”健康・美容グッズ史!
(画像=ドラマッド放射性歯磨き粉の広告 By Suit – Own work, CC BY-SA 4.0, Link,『TOCANA』より 引用)

 20世紀初頭のドイツ。大手化学会社アウエルゲゼルシャフト社は、ランタン製造で余った放射性物質トリウムを歯磨き粉「ドラマッド」に配合した。第一次世界大戦前からドイツ兵に試験的に供給され、戦後には一般市場向けに「細菌を殺し歯茎の血行を促進する」と宣伝し、販売を計画していた。放射能の持つ「輝き」のイメージを、文字通り歯の輝きに結びつけようとしたのだろう。